高次脳機能障害

高次脳機能障害は、
一般にはあまり知られていませんが、
近年、急速に注目されている障害です。

うつやイライラ、記憶障害、考えがまとまらない、
頭痛、めまいなど、症状は多岐にわたります。

高齢者の認知症の症状とも重なりますが、
高次脳機能障害は年代を問いません。

高次脳機能障害支援センターによると、
事故や病気などで脳が損傷を受け、
それによって引き起こされる脳の後遺症です。

身体的障害を伴わないことが多く、
症状によっては本人でさえも気づきません。

軽度の場合は、MRI検査でも
異常がみられないこともあります。

専門医や症状を理解するケア専門職が少なく、
退院後に家族などを含めサポートする体制も
あまり整備されていません。

このため、2018年10月23日に

「高次脳機能障害をどう支えるか」
~社会的支援法(仮称)制定に向けて~

と題したシンポジウムが東京で開かれました。

東京慈恵会医科大学付属第三病院の
渡邉修・リハビリテーション科診療部長は
具体的な症状や退院後の課題をあげています。

・記憶ができない、集中できない、仕事ができない
 (これからどうすればいいの?)

・イライラ、うつ、ひきこもり
 (復職できるか誰もわかってくれない)

・学校に行けない、授業がわからない、友達がいない

・どこに相談したらいいの? どのようなリハビリがあるの?

「高次脳機能障害とは、さまざまな症状の代名詞であり、
 身体障害と同レベルの分類が必要」と説明されました。

高次脳機能障害の原因疾患として
あげられているのは次のとおりです。

■脳卒中(脳梗塞70%、脳出血20%、くも膜下出血10%)

■脳外傷(頭部外傷)

■低酸素脳症

■脳腫瘍

しかし、広い意味での高次脳機能障害としては、
脳性まひや発達障害のほか、統合失調症などの精神科の病気、
さらに変性疾患としてアルツハイマー病やパーキンソン病、
レビー小体病もあげられています。

これらの原因疾患に対して法整備がされているのは

発達障害支援法(2005年)
知的障害者福祉法(1960年)
精神保健福祉法(1995年)

となっています。

認知症や難病の一部については、
40歳以上の特定疾患と65歳以上の要介護認定で、
介護保険の適用が受けられます。

しかし、課題として

高次脳機能障害と認知症の
関連性や違いが曖昧であること

診断や治療、リハビリなど
医療と介護の連携が確立されていないこと

が指摘されています。

高次脳機能障害者実態調査報告書(東京都、平成20年)によると、
原因疾患の82%は脳血管障害で、10%は外傷性脳損傷です。

ここから高次脳機能障害の患者は、
日本に50万人いると推定されています。

男性が圧倒的に多く、年齢的には
55歳から65歳くらいまでと75歳前後が
ピークとなっています。

外傷性の原因として、若年者は交通事故、
高齢者は事故のほか転倒などが目立っています。

全国的に調査された公的データはまだありません。

シンポジウムには、与党連立政権の衆参院の議員が出席し、
今後の法整備の推進策や、患者・家族のサポート体制などが
話し合われました。

国などは支援策として

 1)自賠責による後遺症認定制度開始(2001年)
 2)労災における後遺症認定制度開始(2003年)
 3)厚生労働省モデル事業(2001~2005年)
 4)障害者自立支援法(2006年)

などを実施してきました。

高次脳機能障害情報・支援センターなどの支援拠点機関は、
全国で104か所設置されています。

しかし、地域格差が大きく、支援相談コーディネーターや
社会福祉士、保健師、作業療法士、言語聴覚士など
専門職の配置も十分ではないことが指摘されています。

現場における課題として次のことが指摘されました。

1、支援普及事業は全国に展開したが、地域格差が広がっている

2、医療との連携強化が重要だが、
  介護保険の2号被保険者(40~64歳)への適用と
  地域包括ケアと障害者福祉との連携が課題

3、評価方法や支援手法は一定程度構築されたが、
  地域の支援者が実践できるほどになっていない

4、社会的行動障害について、地域の対応力と支援力が不足している

5、地域の医師は、診断にあたって精神領域の理解がもっと必要

また家族の視点からは

「日常生活を生涯にわたってサポートする制度の構築」
「高次脳機能障害支援法の成立」
「行政や福祉職に対する啓発」
「リハビリテーション技術の向上」

などの切実な要望があがっています。

国の第5期障害福祉計画の基本指針(平成30年度~32年度)には、

障害福祉サービスの対象となる障害者等の範囲を
身体障害者、知的障害者及び精神障害者
(発達障害者及び高次脳機能障害者を含む。以下同じ)」

と明示されています。

今後の法整備では、
関連法との整理や理論的な実現への道筋が
確立されることが望まれます。

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執筆:渋川智明先生

東北公益文科大学名誉教授
法政大学大学院、目白大学大学院非常勤講師
(福祉・社会保障論、NPO事業論、社会的企業論)

早稲田大学卒、毎日新聞社入社。
西部本社報道部副部長から
東京本社社会部編集委員(厚生労働政策担当)。

2005年4月から東北公益文科大学教授。
公益学部長、大学院研究科長を経て、
2014年4月からは同大学名誉教授。

また、ジャーナリスト経験から介護保険、
医療保険、年金問題など社会保障政策に精通。

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