高齢者のギャンブル依存症

高齢者のギャンブル依存症が新たに注目されています。

依存症には、薬物、アルコール、高額買い物、万引きなどがあり、
最近ではスマホやゲーム依存症も問題になっています。

カジノ法※が2018年7月の国会で成立したのをきっかけに、
国会で依存症に関するデータや患者の実態調査などが出され、
高齢者のギャンブル依存症の論議を呼びました。

 ※「統合型リゾート実施法」(IR法、Integrated Resort)

それらによると、ギャンブル依存症は530万人を超え、
うち50代以上が4割を占めています。

この中には認知症の初期段階やその予備軍も含まれています。

認知症の人が多額の賭け金をつぎ込んだ場合の支払い義務、
その監督者、肉親にまで支払い責任や被害が及ぶのかなど、
今後の大きな社会問題になる可能性もあります。

依存症と名の付く症状は、
ちょっとした心のすき間に忍び寄る深刻な病気です。

その原因は人によって、生活環境によってさまざまです。

一概にはいえませんが、高齢者のギャンブル依存症の多さは、
近年、団塊世代の定年退職者が大量に増えたこととも、
無関係ではないように思えます。

身体はまだ元気な人が多いのにもかかわらず、
一定の年齢で役職を解かれたり、退職を迫られたりします。

時間的余裕に加え、年金などの老後資金、
あるいは不動産、金融資産を持っている人もいます。

それまで付き合いのあった友人も激減し、
社会からの疎外感も感じるでしょう。

そこへギャンブルの誘いが忍び寄ってきても
不思議ではありません。

もちろん節度を持って、ギャンブルを楽しみ、
余裕をもって金銭を賭ける人も多くいます。

しかし何ごとも度を過ぎると問題が大きくなります。

依存症になって、多額の借金を抱え込み、
自己破産や経済的損失に陥り、最終的には
家庭崩壊につながったケースもあります。

そもそも、議論のきっかけになったカジノ法とは、
いったいどんな法律なのでしょうか。

外国では、金銭を賭けられるカジノは一般的に認められており、
アメリカのラスベガスや香港・マカオなどはよく知られています。

日本では金銭を賭ける賭博は、法律で禁止されています。

しかし、競輪、競馬、競艇、オートレースやサッカーくじなどは、
特殊法人や公益法人が運営して、収益の配分先は公益的な用途に
限られています。

つまり「公益」を目的とした「公営」ギャンブルとして
特例的に認められているのです。

高齢者の依存症も多い民間のパチンコは遊技扱いです。

しかし、現実的には景品をもらって満足しているわけではなく、
店外換金の実態があり、収益は経営者が所得として得ています。

税制上の措置もありません。

日本のギャンブル依存症の有病率が、
西欧諸国と比べて4~5倍も高くなっているのは、
その調査データにパチンコが含まれているからです。

政府や関係機関の説明によると、今回成立したカジノ法は、
シンガポールなどの成功例を踏まえ、国内の特定地域で
カジノ、ホテル、ショービジネス、国際会議場などの集積を
目指すとしています。

そこがカジノの一点集中型ではなく、
統合型リゾートと名付けられている所以です。

収益の3割は地域振興策として地元自治体などに回りますが、
7割は経営する民間の事業者が得ることになっています。

賭博法の特例のさらなる拡大解釈になるため、
ギャンブル依存症対策や反社会勢力介入の抑止策などが
国会でも議論されました。

かつてラスベガスで散財した元国会議員や、
老舗企業の御曹司が会社の金を使い込んだ事件も
記憶に新しいと思います。

連立与党の自民・公明党の中にも温度差がありましたが、
最終的には決着しました。

ギャンブル依存症対策として、入場料6,000円を徴収し、
入場回数は「週3回、28日間で10回まで」という制限を設けましたが、
これでは不十分だという意見が今も根強くあります。

大手メディアの論調や世論調査結果にも
反対意見が多くありました。

カジノ解禁が地域の振興や活性化、経済浮揚に
本当に効果があるのかどうかがポイントになっています。

民間のシンクタンクなどは
肯定的な数字をはじき出しています。

計画は、今後設置される「カジノ管理委員会」が
進めることになっています。

候補地やカジノ企業の参入時期などに目が向けられていますが、
未決定のものが多いのが実情です。

ラスベガスの盛況ぶりはともかく、
過去の日本において「リゾート」と名の付く
地域再開発計画は破たんしたところが目立ちました。

バブル期に林立したリゾートマンションやホテルは
今や空室が目立つお荷物と化しているものもあります。

筆者は数年前、アメリカ・シカゴ周辺の街づくり
(メインストリート・プログラム)を現地で調査・取材しました。

連邦政府や地方自治体が知恵を出し合い、
住民参加型の税制優遇策で商店街の街並み保存や
マイクロビジネスを支援・活性化させた
コミュニティ重視の事例を多く視察しました。

一方、カジノを誘致した郊外の街は客が集まらず、
閑散としていました。

案内役の政府職員の「どうしようもない」と
手を広げて見せた表情が思い返されます。

カジノが来たからといって、繁栄するわけではないのです。

今年の猛暑の盛りに国会を強行通過したカジノ法ですが、
荒れる審議のTV中継を見ながら、シカゴ郊外の光景が甦り、
首筋がヒンヤリしました。

プロジェクトを先導する政党、国・地方は、
候補地の立地や事業者選定などをルールに沿って精査し、
成長戦略を後押しできるのかが、この先シビアに問われます。

手を上げている大阪湾岸地域などの「特定地域」候補地では、
集客機能のある施設集積で成長戦略を実現したい思いで切実でしょう。

しかし、カジノのディーラーは公正な役を演じ切らなければ、
客からブーイングが出ることは必至です。

命にかかわる40度を超えるような猛暑の夏、
熱中症の犠牲になった高齢者の悲報が相次ぎました。

エアコンが故障したとして放置した病院の高齢入院患者が
何人も犠牲になるなどの事件も起きました。

高齢者がオレオレ詐欺の被害になる事件も後を絶ちません。

近年、一部研究機関などによる、ゲームやお金をかけない
健康マージャンやカード、ルーレットなどが高齢者の脳を活性化し、
認知症予防になるとの予測結果もあります。

介護保険制度のデイサービス施設などで
カジノ設備をそろえて集客に利用するところも出ています。

そうした目新しいソフトやサービスを導入する背景には、
介護保険施設の過当競争からくる集客合戦が背景にあります。

しかし、本当に認知症予防に効果があるのか、
公的な介護保険を利用してカジノまがいのゲームをすることが
自立や介護予防、健康寿命を延ばすうえで有効なのか、
他の有効なノウハウをもっと活用して進化を図るべきではないか、
など、まだその賛否を問う議論は多くあります。

おカネを賭けないとしても、サービス利用券などを
チップ代わりに発行するケースもあります。

そうしたサービスは過度な射幸心をあおりかねないと
弊害も指摘されています。

導入に否定的な自治体もあり、やはり慎重な議論と研究が必要です。

高齢者のギャンブル依存症が増えることになっては、
超高齢社会の新たな悲劇の火ダネがまた一つ加わることになり、
大変な社会問題に発展します。

新しもの好きで、時間と若干の貯えがある団塊高齢者の
ギャンブル依存症抑止策は急務の課題です。

認知症やその予備軍がギャンブル被害に遭った時の支払い義務や
法律的な対応策なども考えておく必要があります。

何といっても、カジノは
公営ギャンブルやパチンコなどと比べると
賭ける金額のケタが違います。

背負うリスクも大きいため、注意を喚起しなければなりません。

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執筆:渋川智明先生

東北公益文科大学名誉教授
法政大学大学院、目白大学大学院非常勤講師
(福祉・社会保障論、NPO事業論、社会的企業論)

早稲田大学卒、毎日新聞社入社。
西部本社報道部副部長から
東京本社社会部編集委員(厚生労働政策担当)。

2005年4月から東北公益文科大学教授。
公益学部長、大学院研究科長を経て、
2014年4月からは同大学名誉教授。

また、ジャーナリスト経験から介護保険、
医療保険、年金問題など社会保障政策に精通。

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