混合介護特区にNPO法人参入

8月から東京都豊島区で国家戦略特区制度を活用した
「混合介護」(選択的介護)のモデル事業が始まりました。

介護保険適用サービスに加えて、家族などから要望の強かった、
本人以外の家族への調理や散歩同行など、適用外の有料サービス
も始まっています。

この分野でNPO法人が先駆的な活動を実践してきたことを
前回お伝えしましたが、豊島区のNPO法人「やすらぎ」が
大手の介護保険事業者と肩を並べて参入しています。

その内容をみていきたいと思います。

前回に続いて混合介護の趣旨を再掲して説明します。

超高齢社会の日本において、公的な介護保険制度は
公正かつ財政的にも安定的に維持・運営されなければなりません。

公的保険のため、提供するサービスの
種類、範囲にはおのずと限界があります。

厚生労働省は、本人以外の家族の食事準備や洗濯、犬の散歩、
庭の草刈り、来客時のお茶接待などは不適正事例として示し、
介護保険の適用外にしています。

ただ全く認められていないわけではありません。

本人の強い要望があり、介護保険適用サービスと厳格に峻別し、
一体的に提供しないことなどを条件に限定的に容認されています。

しかし、介護を受ける人が求める保険適用外のサービスについて、

どこの事業者で利用ができ、どのくらいの費用が必要で、
どこまでをカバーしてもらえるのか

介護サービスとの区別や提供外サービスの質や内容は確保されるのか

などがグレーゾーンになっています。

混合介護を「選択的介護」と言い換えて、
これらの不安や疑問などを解消しようというのが、
特区制度の中での豊島区の試みなのです。

制度が複雑なので、問題点を整理するために
前回報告した内容と重なる説明もあえてしました。

これらの点を理解したうえで、
NPO法人が参入する意義を考えてみたいと思います。

NPO法人「やすらぎ」の活動内容を紹介します。

中心スタッフは、豊島区役所に30年近く勤め、
仕事の大半を福祉の職場で過ごされた方です。

NPO法が施行されたのは2000年ですが、
やすらぎの創設は2004年ですから、14年の歴史があります。

「町に住む人々がお互いに助け合い、
 支えあって暮らしていくことの大切さ」を痛感し、
今ではスタッフは常勤が8名、非常勤が30名ほどになっています。

事業内容をホームページから引用しますと、
活動範囲は豊島区内のほか文京区、新宿区、北区です。

介護保険法に基づく在宅福祉事業や介護支援、
外出援助などの支援事業、子育ての相談や遊び場の提供
などの事業を実施されています。

商店街の活性化、子育て支援、まちづくりの会合などにも
無料で場所を提供し、地域活動にも貢献しています。

選択的介護のサービス内容は次の通りです。

介護保険サービスとセットで提供され、
居宅内の本人以外の食事や洗濯のほか、
居宅外では次のような幅広いサービスもあります。

1)日用品以外の買い物への同行
 (介護給付では利用できないデパート等への買い物)
2)趣味(区民ひろばや図書館等)への同行支援
3)散歩
4)施設に入所・病院に入院している家族への面会
5)お見舞いへの同行
6)お墓参りへの同行
7)外出先への送迎
8)(介護給付では認められない)院内介助

居宅外の保険適用外サービスでも、
幅広いサービスが提供可能となっています。

ここでもNPO法人のボランティアや助け合いの活動実績が
大変有効に生かされています。

認知症の人や家族の求める介護保険外のサービスについても
幅広く対応できるようになっています。

ここでNPOについて改めて説明します。

NPO法が成立し、1998年12月に施行されてから
間もなく20年になります。

法律によって法人格が与えられましたが、
人間に例えるなら20歳になりました。

1995年1月に起きた阪神・淡路大震災で、
全国からボランティアが復興支援に駆け付けました。

「自社さ」政権時代、任意団体に法人格を付与して
活動をバックアップする法律が議員立法で成立となりました。

このときの「自社さ」政権とは、
自民、社会(後に社民)、新党さきがけの略です。

保守・革新の色分けは、今ではほとんど使われなくなりましたが、
当時の「保革・与野党」が衆参一致して賛成しました。

2年後に公的介護保険法、地方分権一括法が成立しています。

当初、法律は「市民活動促進法」という名称で、
“市民”という言葉に革新性の危機感を持つ自民党内には
消極論もありました。

故、加藤紘一さんは

「自民党は地方・地域の人に支えられた保守政党。
 地域に活動の基盤があるNPOを支持する」

と持論を語っています。

筆者の前任地はたまたま加藤さんの地元である
山形県庄内地方でしたので、言葉の真意がよくわかります。

結局、特定非営利活動法人が
NPOの正式名称になって、今に至ります。

その後、各政党は分裂、消滅、党名変更と離合集散しました。

20歳を迎えるNPO法人に認証された団体は5万件を超えます。

活動内容は「保健・福祉・医療」分野が最も多く、
「介護保険事業者」から「子ども食堂」まで
福祉NPOの活動は多岐にわたります。

今回紹介したNPO法人「やすらぎ」も歴史を積み重ねています。

営利、行政セクターと並び、超高齢社会における
非営利活動の存在感とその重要性は増しています。

非営利といっても、正当な収益活動や
ソーシャルビジネスは許容されています。

しかし、不法な利益を上げる組織を売買する動き、
「政策提言(Advocacy)」を政治活動と混同して、
NPO法人に圧力をかけ、公的施設の使用・貸与を禁じる
~などの逆風も気にかかります。

20年前、市民活動家、政治家、官僚などの
先見者たちは党利党略、政治的立場を乗り越えました。

「保守・自民党」にも懐の深さがありました。

NPOのリーダーは団塊世代が多く、全共闘世代と重なるため、
年齢的には引退、世代交代の時期に入っていますが、
「社会を変えたい」という志は今も持ち続けています。

NPO法人の最大の問題は財政面ですが、
認定NPO法人の税制優遇の拡大、休眠預金の活用など
解決のための施策が模索されています。

こうした歴史と時代の期待を背負ってきたのがNPO法人です。

課題も多々ありますが、今回取り上げたNPO法人「やすらぎ」が
豊島区の混合介護(選択的介護)を実験的に取り組んでいます。

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執筆:渋川智明先生

東北公益文科大学名誉教授
法政大学大学院、目白大学大学院非常勤講師
(福祉・社会保障論、NPO事業論、社会的企業論)

早稲田大学卒、毎日新聞社入社。
西部本社報道部副部長から
東京本社社会部編集委員(厚生労働政策担当)。

2005年4月から東北公益文科大学教授。
公益学部長、大学院研究科長を経て、
2014年4月からは同大学名誉教授。

また、ジャーナリスト経験から介護保険、
医療保険、年金問題など社会保障政策に精通。

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