絵本読み聞かせで認知症予防(続編)

東京都健康長寿医療センターが提唱・実施している
「絵本読み聞かせ」プロジェクトを取り上げ、前回は
東京都板橋区で行われた「りぷりんとフレンズ・いたばし」の
子どもたちを対象にした「スペシャルお話し会」を紹介しました。

今回は子どもたちだけでなく、
高齢者による高齢者のための
「絵本読み聞かせ」を紹介します。

絵本の読み聞かせが、
高齢者の認知症予防や認知機能低下を改善するのに
大きな効果があることを説明しました。

それは聞き手にとっても効果があります。

絵本の内容を過去の経験や知識に照らして、
記憶をたどりながら過去のエピソードを思い浮かべることで
脳が活性化されます。

連休明けの5月8日(火)午前11時から
東京都北区田端高齢者在宅サービスセンターにて、
「りぷりんとフレンズ・北話会(ほくわかい)」による
絵本の読み聞かせが行われました。

センターは北区の外郭団体
社会福祉法人北区社会福祉事業団が運営しています。

65歳以上の介護保険認定者などの
高齢者が通うデイサービスの通所施設です。

一般型通所介護の利用定員は30人、
認知症対応型通所介護の利用定員は12人です。

70~80代の利用者が多く、90代もいます。

当日は30人を超える聴衆とスタッフが集まりました。

北話会では、リーダーの松島康夫さんらメンバーが
センターの3階で定期的に勉強会や打ち合わせを行っており、
高齢者施設2か所で絵本の読み聞かせをしています。

こちらのセンターで使用した絵本は次の通りです。

『くわずにょうぼう』『日本の昔話』『みょうがやど』
『たなからボタもち』『花さきやま』の5冊。

対象が子どもたちの場合とは、絵本の内容が当然違います。

リーダーの松島さんが担当した
『みょうがやど』(作・絵:川端誠、クレヨンハウス)は
落語を元にした内容です。

茗荷を食べ過ぎて物忘れをすることはないのですが、
それを本気にした欲深い宿屋の夫婦が客に茗荷料理を
たらふく食べさせ、ネコババしようとします。

しかし、客が忘れたのは宿代の支払いだったというオチ。

リーダーの松島さんは72歳。

大手海運会社を退職後、絵本の読み聞かせをしています。

とくに落語が趣味ではないそうですが、
サラリーマン時代にはプレゼンテーションを
たくさん経験されました。

プレゼンテーションさながらにジェスチャーをまじえ、
臨場感たっぷりに読み進めていきます。

オチのくだりになると、会場からは
喜んで手を叩く音や大きな笑い声が聞こえました。

トリを務めた85歳の目時敬子さんが、
絵本を持って登場し、注目を浴びていました。

聴衆は、同世代かそれ以上の世代である
目時さんの登場に興味津々のよう。

絵本のタイトルは『花さきやま』です。
(作:佐藤隆介、絵:滝平二郎、岩崎書店)

民話を基にしたストーリーで、
貧しい少女が祭りの準備のために
山に入ったところヤマンバに会い、

「一つ良いことをすると、山に花が咲く」

と言われます。

少女は里に下りても、その言葉を忘れず、
人のために良いことをします。

そのたびに花さき山が母のように少女を見守り、
花が咲くと、それを励みに努力するという心温まるお話。

美しいイラスト風の絵と昔懐かしい語り口で読み進められました。

高齢の聴衆は、故郷の里山を思い出すかのように記憶をたどりながら、
ストーリーの展開を追っているようでした。

この後、メンバーが掲示板に数字を付けたカードを張り付けて、
トランプの神経衰弱のようなゲームをして、皆で楽しみました。

カードの裏には1枚ずつ動物や植物が描かれており、
裏返してどのナンバーが同じ絵だったのかを当てていました。

高齢者は物忘れや記憶力が低下することがあります。

ですが、直前に記憶した絵や言葉などを思い出す能力は、
若い人に比べてもあまり落ちず、トレーニングすれば
改善するとの報告もあります。

この日のゲームでも、ほとんどの絵合わせで
正解した人が何人もいました。

参加者は、絵本の読み聞かせについて、

「絵本が小さくて絵が見づらかったが、
 話の内容や展開は興味があって面白かった。
 また聞きたい」

「絵や話をとおして、いろいろなことを想像して楽しかった」

などと感想を話していました。

参加者は年齢もキャリアも、
そして要介護度、認知症のレベルも多様です。

会場となった東京都北区田端高齢者在宅サービスセンターでは、
送迎や食事、入浴などの介護サービスや生活相談のほかに、
書道、陶芸、レザークラフト、フラワーアレンジメント、
ボランティアによるゲームなどを実施しています。

また季節ごとにレクリエーション活動を展開しています。

センター長の亀田淳一さんは

「今回は広い部屋で実施しましたので、絵本が見にくかったり、
 後ろの席の方には声が届きにくかったりしたかもしれませんが、
 参加者も興味を持って聞いていました。
 やり方を工夫すれば、いろいろな試みができます」

と話されていました。

80歳で絵本の読み聞かせに出会った目時さんは

「私と同世代かそれより若い人にも熱心に聞いていただけてよかった。

 次はどんな絵本を読もうか、どんな速さで読めばわかりやすいかなど
 毎回考えをめぐらしています。

 そうして考えることとうまく読めたときの満足感が
 頭をシャープにしてくれるのではないかと思います」

と感想を語ってくれました。

絵本の読み聞かせに出会う前のことを目時さんはこう語っています。

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80歳で知った絵本の世界は驚きでした。

それまでのわたしは介護を受ける側だと思い込んでいました。

もう10年近くあまり外出せず、じっと家に座って、
ひきこもっている状態でした。

何か外でできることがしたいと思っても、
ボランティアグループは若い人が多いため、
気が引けて、参加できませんでした。

そんなときに、偶然目にしたのが北区のパンフレットで、
絵本の読み聞かせを募集していました。

“これだ”と思いました。

ここなら高齢者が多いし、私にもできると思い応募しました。

「脳の活性化」という言葉にも惹かれました。

読み聞かせの講習を受け、以来、仲間の皆さんとともに
活動を続けられているのが、うれしくてたまりません。

絵本の読み聞かせを始めて、社会とのかかわりができたせいか、
同居している娘との会話も広がりました。

生きるということは、一人ではないと、
目の前が開けたような気がします。

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この5年間の絵本の読み聞かせ体験は、
目時さんの生きがいになり、生き方を変えたようです。

リーダーの松島さんや他のメンバーは

「目時さんの読み聞かせは、落ち着いていて、
 ゆったりした気持ちで聞くことができます。

 みんなのお手本にもなっています」

と、今後も読み聞かせを続けていけるよう支え合っています。

今はリーダーになった松島さんですが、こう語っています。

「最初に高齢者施設で発表を行ったときは、
 参加者に話しかけることもできませんでした。

 小さな子供たちを対象にしたときは、
 どうすればよいのか戸惑いました。

 ですが、皆さんの反応には喜びを感じました。

 自分がずいぶんと変わったように思えます。

 0歳から100歳までの人と
 絵本を通じて話し合えるようになりました。

 新しい世界を知りました。

 これからも絵本の宣伝人として、
 多くの絵本を読んでいこうと思っています」

と、これから絵本の読み聞かせに参加しようと
考えている人たちに心強いエールを送っています。

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執筆:渋川智明先生

東北公益文科大学名誉教授
法政大学大学院、目白大学大学院非常勤講師
(福祉・社会保障論、NPO事業論、社会的企業論)

早稲田大学卒、毎日新聞社入社。
西部本社報道部副部長から
東京本社社会部編集委員(厚生労働政策担当)。

2005年4月から東北公益文科大学教授。
公益学部長、大学院研究科長を経て、
2014年4月からは同大学名誉教授。

また、ジャーナリスト経験から介護保険、
医療保険、年金問題など社会保障政策に精通。

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