絵本読み聞かせで認知症予防

認知症の人たちが増え、団塊世代が75歳以上になる
2025年問題がクローズアップされています。

こうした時代背景を受け、近年にわかに
認知症予防に関心が集まっています。

しかし中には根拠のないものも多く、混乱を招いています。

今回は、東京都健康長寿医療センターが提唱・実施している
「絵本読み聞かせ」プロジェクトについて紹介します。

科学的根拠に基づいた有効な方法として注目されており、
プロジェクトは60代以上の高齢者が実践者として参加しています。

絵本の読み聞かせの練習には
物語のあらすじをおぼえる、
言葉をすらすら言えるようにする、
姿勢・発声・活舌を良くするというような
認知症予防、介護予防の要素が豊富に含まれています。

このプログラムに参加した人には記憶機能の向上が見られ、
認知機能の軽度低下者には特に効果がありました。

どのようなグループが、どういう実践を行って、
どんな効果があるのかを順番にみてゆきます。

まず混乱を招いている実態と
認知症予防の現状を確認していきましょう。

本屋をのぞけば、いろいろなタイトルの
認知症予防法を解説した実用書や
医学関連書が多数並んでいます。

新聞の書籍広告にも毎日のように掲載され、
またTVの特集番組等も連日放映されています。

思いつくものだけでも、
フィジカル面からのアプローチでは
「体操」「ウオーキング」「筋トレ」など。

具体的な手法として
「汗をかく程度に」
「早足で〇〇分程度を小刻みに」
「スクワットを何回程度」
などと細かく指示されています。

またメンタル的な面からは
「脳トレ」「パズル」「回想法」
「パズルを組み合わせたクイズ方式」
などのネーミングが付けられています。

こちらも絵合わせや数字の組み合わせ、記憶力を促す方法、
写真や絵画を見て昔日を思い起こす方法などさまざまです。

きちんとデータを取集しているものや
医学的に根拠が示されているものもありますが、
そうではないものもあり、千差万別です。

これまでにメディアで紹介されてきた方法は、
介護福祉、医療の専門知識のある人たちによるものであれば、
どれも何らかの効果が期待できるでしょう。

ただ、あまりにも多くの専門家が
さまざまな取り組みを紹介していて、
どこから手を付け、どのように実行すればいいのか、
混乱を招いていることも確かです。

これまでの研究や実践から、
認知症予防や軽い認知症を食い止め、
進行を遅くするなどの方法として紹介されているものを
大づかみにまとめてみました。

もちろん異論や反対意見があることは承知しています。

医学・生理学的な薬物投与や医学治療を除き、
一般の人が日常生活の中で心がけ、日々実行できる方法としては、
ほぼ次の4つに集約されるのではないかと、筆者は思っています。

1)食物の偏りをなくし、バランスを良くする
  栄養改善面からのアプローチ

2)身体的なフィジカル面を向上する
  運動などからのアプローチ

3)精神的なメンタル面を向上させ、
  脳の活性化を図るアプローチ

4)コミュニケーション能力の向上を図り、
  社会的なつながりや役割を創出するアプローチ

冒頭で紹介した「絵本読み聞かせ」プロジェクトは、
これらの項目をほぼ満遍なく含んでいます。

東京都健康長寿医療センターの前身は
東京都老人総合研究所です。

日本の認知症や介護予防、介護ケアを
先駆的に研究し、成果を上げてきました。

絵本読み聞かせプログラムは、同センターの
「社会参加と地域保健研究チーム」が実施しています。
(研究部長、藤原佳典・医学博士)

厚生労働省の厚生労働科学研究費補助金等の助成を受けて
2004年度からチームが開始しました。

研究の正式名称は

「世代間交流による高齢者の社会貢献に関する研究」
(Research of Productivity by Intergenerational Sympathy)

で、頭文字を取って「REPRINTS」と名づけられています。

任意団体として発足し、現在は世代間交流プロジェクトの
NPO法人「りぷりんと・ネットワーク」(渡邉晴子理事長)
になっています。

読み聞かせは60代以上のシニアボランティアが行いますが、
その前にインストラクターによる講習会や発表会に参加して、
心構えやスキルを身につけます。

日本橋図書館(東京都中央区)、川崎市多摩区保健福祉センター、
長浜市六角館(滋賀県長浜市)から始まり、さらに横浜市青葉区、
東京都杉並区、豊島区、文京区、北区がネットワークに参加し、
研修会やエリア連絡会などを行っています。

このほかにも
東京都板橋区、練馬区、千代田区、大田区、府中市、狛江市などで
絵本読み聞かせ講座を開き、自主グループとして活動しています。

合計17地区で、関連団体を合わせると
約600人が参加するまでに広がっており、
首都圏外からの問い合わせや参加も相次いでいます。

先日、りぷりんとフレンズ・いたばしの講習を修了された
女性ボランティア3人が参加した「スペシャルお話し会」を
見学させてもらいました。
(@東京都板橋区の区立氷川図書館)

「りぷりんと・ネットワーク」の傘下団体でもあります。

開始30分前には、母親や両親、中には祖母とみられる
保護者に連れられた子供たちが集まってきました。

子供たちは50人ほどで、
未就学児や小学校低学年でほとんどでした。

プログラムでは
『ぐりとぐらのえんそく』
『どのくらい おおきいかっていうとね』
『かわべのピクニック』
『ぐりとぐら』
の計4冊の絵本の読み聞かせが行われました。

この日は、野ねずみやくまさんなどの動物が登場し、
遠足や冒険などいろいろなストーリーを展開するなど、
テーマを決めたスペシャル企画でした。

2番目に登場した

『どのくらい おおきいかっていうとね』
 作:舟崎靖子 絵:にしかわおさむ
 偕成社・2000年2月発行

をここに紹介します。

あらすじは~
森に住む大きな大きなくまさんのシチュー鍋は、
うさぎさんのお風呂ぐらいで、ねずみさんのプールぐらい。

ベッドはリスさんの運動場ぐらいで、
カメさんの飛行場ぐらい大きくて・・と、
くまさんがどのくらい大きいかを
絵と文で解説しています。

意外なたとえの絵が次々と出てきて、子どもたちは興味津々です。

「りぷりんと」は、読み聞かせた子どもたちの反応実績から
『オススメ絵本101選』を出版しています。

この本もその中の一冊です。

通常、ボランティアは
『子どもとシニアが元気になる絵本の読み聞かせガイド』を参考に、
その日に参加する子どもたちの年齢層や興味関心に合わせて
自主的に読み聞かせのテーマを選びます。

そして、幼稚園、保育園、小中学校、福祉施設など
多様な場所で読み聞かせをします。

一冊の読み聞かせにかける時間は3分~10分ほどです。

この日に行われた読み聞かせでは、
子供たちは母親らに感想を語ったり、
手まねで絵を再現したりと盛り上がりました。

終了後、ボランティアたちは反省会を毎回開きます。

リーダーの方は

「皆さんおとなしかったので、もっと季節に合った、
そしてダイナミックな内容にしたら良かったのかなと思いました。
その場で臨機応変に対応したい」

と話していました。

今回がまだ2回目というメンバーは

「年齢層が思ったより低くて、冒険の話が難しかったのかなと思います。
事前に読んではいたのですが、もう少しわかりやすく説明したほうが
良かったのかなあ、と反省しています」

と語っていました。

この日は、3期講習会受講生の女性ボランティア4人が
研修のため見学参加しました。

ボランティアの募集を板橋区の広報誌を見て応募したという女性は

「読み聞かせは、何をどのように伝えたいのかをまず構想して
絵本を選ばなければなりません。自分がどのように世の中を認識し、
何を大切に感じているかなど、自分と向き合うことにもなります。
この段階から認知症予防、記憶力向上などに効果があると感じます」

と感想を述べていました。

読み聞かせを効果的に実行するには困難もあります。

読み聞かせ場所や関係機関の協力、
理解を求めるための関係者への説得、
ボランティアメンバーを集める広報体制の充実
などが必要です。

開催にこぎつけても、子供たちが
関心を示してくれないこともあります。

そのため事前に集まって打ち合わせをし、
絵本を選ぶために本屋か図書館に足を運びます。

会合ではほかに食の栄養改善を学んだり、
弁当を持ちより情報交換をしたりすることもあります。

会合場所や図書館に足を運んでいると、
ウォーキングには十分な歩数が重ねられます。

絵本を事前に読み、どの箇所でどのように声を強めるかなど、
感情表現を考え覚えますので、記憶力が高まります。

心身に障害がある人でもできる範囲で参加できます。

各地域に結成された支部は、地域ネットワークの窓口になり、
他の介護福祉・児童生徒の支援ネットワークとの連携もできて、
社会とのつながりを実感できます。

子育てを終えた主婦や退職後の男性など、
地域で生活する人たちが区の広報誌を読んで
応募するケースが多いようです。

地域の子供たちの笑顔や保護者の協力が得られたときの充実感は貴重です。

子供たちが絵本を通じて活字文化に興味を抱き、
読書や知的好奇心を高める効果もあります。

こうした読み聞かせ活動は、
参加者本人の認知症予防や介護予防に役立つだけではなく、
まちづくりの基本である地域住民の協力を確立しながら、
地域ネットワークの構築、子どもや高齢者の見守り活動にも発展しています。 

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執筆:渋川智明先生

東北公益文科大学名誉教授
法政大学大学院、目白大学大学院非常勤講師
(福祉・社会保障論、NPO事業論、社会的企業論)

早稲田大学卒、毎日新聞社入社。
西部本社報道部副部長から
東京本社社会部編集委員(厚生労働政策担当)。

2005年4月から東北公益文科大学教授。
公益学部長、大学院研究科長を経て、
2014年4月からは同大学名誉教授。

また、ジャーナリスト経験から介護保険、
医療保険、年金問題など社会保障政策に精通。

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