高齢者の事故被害

介護施設や自治体では、認知症の人の徘徊や居場所を探知するために
AIやロボットなどの先端技術が搭載された機器を活用し始めたことを
前回ご報告しました。

しかし、電動アシスト自転車に乗った20歳の女子大生による
高齢女性死亡事故(神奈川県川崎市)には本当に衝撃を受けました。

商店街で77歳の被害女性が電動アシスト自転車に衝突し、
転倒した被害女性は脳挫傷で亡くなりました。

被害女性は認知症や徘徊などの行動はなかった様ですが、
加害者の女子大生には驚きました。

左手にはスマホ、ハンドルに添えた右手には飲み物を持ち、
左耳にイヤホンをした状態で「衝突するまで気が付かなかった」
と報じられていました。

認知症や徘徊などの行動はなくても、高齢になると
一瞬の動作や判断がやはり若い時とは異なります。

高齢者が被害者になる交通事故などが、
近年、日常生活を営む街中で頻発しています。

首都圏の私鉄沿線に住んでいると、駅前や近郊のスーパーなどで、
杖を突きながら、おぼつかない足取りで歩いている高齢者を
よく目の当たりにします。

高齢者の周辺や街には危険がいっぱいあふれています。

警察はこの重大事故を起こした女子大生を
重過失致死容疑で書類送検しました。

書類送検というと処分が軽いような印象を受けますが、
それは違います。

詳細はともかく、加害者の女子大生は
重大事故を起こしたことを認識し、
逃亡の恐れもないということで逮捕は免れました。

ですが、一般の重大死亡交通事故と同じで、
重過失致死という重い容疑の刑事事件として
裁かれることになるでしょう。

また、損害賠償を伴う民事裁判などの結果によっては、
女性の家庭における役割や逸失利益などが勘案され、
厳しい賠償責任処分や立場に追い込まれることになります。

事故を起こした加害女性が自転車損害賠償保険に
入っていたかどうかはわかりません。

ですが、いずれにしても事故の重大性からみて、
スマホ関連の事故は由々しきことだと認識しなければ
いけないことを示しています。

今回の事故で電動アシスト自転車運転がいかに危険か、
重大事故に対する対応が改めて注意・喚起されたのでは
ないでしょうか。

ここ数年、電動アシスト自転車は
バイクを凌駕して普及しており、
それに伴い事故も増えています。

これまでもスマホ片手のスポーツタイプ自転車のスピード走行や
自動車のながら運転事故は、すでに多く発生してきました。

事故の責は、多重・多層的な原因が絡むので、
一概には決めつけられません。

ですが、自動車とオートバイは運転免許が必須で、
自転車は人力頼りなため、ある程度の制御が可能です。

しかし、電動アシスト自転車の場合、
電動の推進力が伴っても自転車扱いで、
免許がなくても子供から大人まで乗れます。

推進力となるバッテリーの開発によって、
ペダルをちょっと踏んでも急加速できるなど
性能が良くなったといわれています。

電動アシスト自転車には、
運転技術の向上やマナー順守がより求められます。

認知症などの高齢者による、
高速道路の逆走やアクセルとブレーキの踏み間違え事故が増えており、
75歳以上の高齢者の免許更新は厳しくなりました。

認知症と判断されると、免許証の返上や不交付などの
処分が取られるようになりました。

高齢者が加害者になることも被害者になることも、
避けなければいけません。

電動アシスト自転車に乗ったことがあり、
駐車場の必要がなく、小回りが利き、
効率的な運転性能の良さを実感しました。

今は値段によっては格段に高性能な製品も商品化されています。

坂の多い街や足腰・体力が弱っている人の移動には
大きな味方になります。

在宅介護事務所のヘルパーさんが
業務用の巡回に使っている例もありました。

しかし、便利さとは裏腹に
やはりリスクとも背中合わせです。

最近では、前後に子供を乗せて街中を電動アシスト自転車で
走っているママチャリを時折見かけますが、これも大変危険です。

私は健康と実用を兼ねて、せっせとペダルをこぐ、
荷台付きのママチャリに似た自転車を愛用しています。

乗るときは細心の注意を払いながらも、
事故時の損害保険にも加入しています。

川崎市で電動アシスト自転車による被害に遭った女性は、
退職された旦那さんと海外旅行に行くのが趣味だったとのことです。

報道では、買い物に行くのに便利だからと、
電動アシスト自転車を購入して乗っていたのですが、
旦那さんが危険だからとやめさせたそうです。

しかし、今回の事故では、
ながらスマホしながら電動アシストに乗った女性から
被害を受けてしまいました。

ながらスマホも歩きスマホも、
重大な事故加害者となる悲劇と隣り合わせであることを
思い知らなければなりません。

ちょっとぶつかっただけでも高齢者は転倒しかねないのです。

前回の記事でも書きましたが、
認知症はゆっくりと症状が進んでゆきます。

身体的にはそれほど不自由がなくても、
自分の状態や今いる環境をかつてのように判断できなくなると、
やはり不安が増します。

環境を変えようと外出したり、危険な場所に足を踏み入れたりして、
行方不明や死亡事故につながることも珍しくありません。

しかし、いたずらに踏みとどまることを強制し、
室内への隔離や監視を強化するだけでは、
尊厳ある自立生活を損ないます。

認知症の人たちとともに生きる社会には、
被害事故や加害事故に遭わずに安心して暮らせる
街づくりが重要です。

以前にも紹介しましたが、厚生労働省などの国も
認知症サポーターを養成したり、認知症カフェを増やしたりなど、
認知症にやさしい街づくりを推進しています。

街中にちょっと立ち寄れる場所や困ったときに相談できる人などが
どこにでもいるシステムの構築が必要です。

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執筆:渋川智明先生

東北公益文科大学名誉教授
法政大学大学院、目白大学大学院非常勤講師
(福祉・社会保障論、NPO事業論、社会的企業論)

早稲田大学卒、毎日新聞社入社。
西部本社報道部副部長から
東京本社社会部編集委員(厚生労働政策担当)。

2005年4月から東北公益文科大学教授。
公益学部長、大学院研究科長を経て、
2014年4月からは同大学名誉教授。

また、ジャーナリスト経験から介護保険、
医療保険、年金問題など社会保障政策に精通。

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