認知症徘徊感知器の普及

AI(人工知能:artificial intelligence)や
IoT(モノのインターネット:Internet of Things)など
最先端の科学技術を活用した介護ロボットの実用化を紹介してきました。

今回はその中でも、
普及・実用化が進んでいる「認知症徘徊感知器」の開発状況や
その機能を有効活用している自治体の取り組みをみていきます。

ケアをしている人たちが気付かないうちに、
認知症の人が介護施設や自宅から
外部の街や危険の多い場所に出てゆくことを
「徘徊」(はいかい)と呼んでいます。

近年、徘徊は大きな社会問題になっています。

認知症はゆっくりと症状が進んでゆきます。

身体的にはそれほど不自由がなくても、
認知機能の低下により、自分の状態や今いる環境を
判断できなくなると、不安が増します。

そうした不安を解消しようとして、外出すると、
危険な場所に足を踏み入れてしまい、
行方不明や死亡事故につながることも珍しくありません。

しかしいたずらに、踏みとどまることを強制したり、
室内への隔離や監視の強化をしたりするだけでは、
尊厳ある自立生活を損ないます。

「認知症とともによりよく生きる」という観点からは、
認知症の人たちを「できない」「わからない」人だから、
本人を抜きにして、家族や周囲の専門家が対策を決める
という判断は変えなければいけません。

「徘徊」即「行方不明」というネガティブな発想の転換が求められます。

認知症の人たちを次のような意識・価値観でとらえることが必要です。

・本来持っている能力や知識はさまざまなケースに対応できる
・それには本人、当事者の意思を尊重する
・本人抜きで家族や周囲が判断して対応策を進めない
・買い物、散歩、交通機関の駅利用など日常生活を地域で支える

以上のような考え方を専門家や行政の担当者だけでなく、
地域全体で理解を深めなければなりません。

厚生労働省の研究会によると、
高齢化により独居・老々世帯と認知症高齢者が増加しており、
徘徊行動による行方不明者は年間1万人以上にのぼります。

地域包括ケアにおける定期巡回、臨時対応での見守りが必要ですが、
介護・看護者は不足しています。

徘徊感知器の介護保険適用が進められていますが、
現在のところ徘徊感知の単機能機器のみの限定的な適用です。

ケアマネジャーや専門家の意見を取り入れた機器を
個別に判断して介護保険適用機器としています。

近年はメーカーなどが独自に機器を開発しています。

広い意味での見守りや徘徊感知機能機器は
幅広く開発・販売され始めています。

普及が進み始めたものとして、高度な多機能なものから、
靴に埋め込んだGPSチップで徘徊場所を感知・送信するシステム、
身体に発信機能のあるタグを身に着けるものまで、
その種類や機能は多岐にわたります。

例えば次のようなものです。

1)見守り介護ロボット
カメラ、温度センサー、マイク、送受信器、携帯電話モジュールを内蔵。
高齢者の見守りに必要な各種の機器と連動し、呼び出し、徘徊行動、
室温異常点滴の終了、薬の飲み忘れなどを、介護者の携帯電話に
メールで知らせます。

カメラは利用者を常時監視するわけではなく、
利用者がセンサーを踏んだり、呼び出しスイッチを押したりした
場合のみ作動します。

2)見守りシステム(認知症徘徊感知機能)
充電タイプのGPS端末を靴の中に挿入し、
徘徊時にパソコンやスマホで居場所を特定します。

徘徊で行方不明になった場合、家族が警察に行方不明届を出し、
2時間後ぐらいに防災アナウンスがされます。

しかし徘徊の場合、電車やバスで
居住エリア外に移動することも多くなります。

当該警察の管轄外でも、GPSで居場所が感知されれば、
発見が容易になります。

これらの機器は、価格、使い方、安全性、メインテナンスなど
課題はまだまだ多くあります。

ですが、機器の活用とともに地域の理解と認識が深まれば、
ネットワークが創造されることにもなります。

各地域や自治体では認知症SOSネットワークの輪が広がっています。

東京都稲城市は、国土交通省のモデル事業に選定された
「みまもりタグを活用した地域の見守り体制整備・活性化モデル事業」で、
全国展開している警備会社と協力し、地域での見守り事業を行っています。

稲城市のホームページには、次のような事業概要が掲載されています。

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急速な高齢社会の進展に伴い、
認知症患者の行方不明や事故増加は、深刻な問題の一つで、
家族だけで高齢者を見守り続けることは困難な場合があります。

その対策の一助として、同社の徘徊対策商品
「みまもりタグ(ボタン電池で稼働する小型発信機)」等を活用します。

地域の見守りボランティアが専用アプリを
スマートフォンにインストールしておき、
「みまもりタグ」を身に付けた高齢者とすれ違う際に、
スマートフォンの位置情報機能が作動し、
自動的にALSOKのサーバへ匿名の位置情報として蓄積します。

稲城市では、徘徊の恐れのある認知症高齢者等へ徘徊対策商品
「みまもりタグ」200個、みまもりタグを収納する「専用靴」200足、
位置情報の提供基地局「感知器」260台を無償で貸し出します。

これらの仕組みから、万が一、高齢者が行方不明となった場合に、
捜索する際の一助とするものです。市ではこの事業を通じて既存の
「高齢者見守りネットワーク事業」等の地域での見守りを強化してまいります。

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参照:稲城市ホームページ
http://www.city.inagi.tokyo.jp/kenko/koureifukushi/koureisya_mimamori/mimamoritagu.html

地域住民よる見守り運動の先駆けといえる福岡県大牟田市では、
市民が自主的に活動して、関係機関に連絡する運動を続けてきました。

商店街や交通機関の駅、公共の場所等で
認知症の人たちを見かけたら声をかけてきました。

「徘徊」という言葉を使わず、認知症の人たちの自主性、
外出の自由などを幅広く支援しています。

見守りネットワークの輪は全国に広がっています。

先端的なIT機器、地域の住民が一体となって活動すれば、
見守り運動は大きな効果を発揮できるようになっています。

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執筆:渋川智明先生

東北公益文科大学名誉教授
法政大学大学院、目白大学大学院非常勤講師
(福祉・社会保障論、NPO事業論、社会的企業論)

早稲田大学卒、毎日新聞社入社。
西部本社報道部副部長から
東京本社社会部編集委員(厚生労働政策担当)。

2005年4月から東北公益文科大学教授。
公益学部長、大学院研究科長を経て、
2014年4月からは同大学名誉教授。

また、ジャーナリスト経験から介護保険、
医療保険、年金問題など社会保障政策に精通。

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