先進国での認知症の有病率は低下傾向に

認知症患者の急増が、日本に限らず
世界規模で社会問題になっています。

認知症対策が喫緊の課題となっている中、
興味深いデータがあります。

それは先進国における「認知症有病率」の低下です。

有病率とは、ある地点、ある地域内の全患者数を
その地域の人口で割ったものです。

確かに高齢者の増加に伴い、
認知症患者の”数”自体は増えています。

しかし、先進国に限った場合、高齢者の中に含まれる
認知症患者の”割合”は減っているのです。

実は2005年の時点において、
米国の長期介護に関するデータから
認知症有病率の低下が報告されていました。

2010年代に入ると、英、蘭などの先進国からも
同様の報告が続々と上がるようになりました。

認知症の有病率が低下した要因がわかれば、
それは認知症予防にいかすことができます。

研究者らは各国の報告に共通する要因として

・若年期における教育の充実
・認知症に関する危険因子の減少

の2点を挙げています。

まずは「若年期における教育の充実」に焦点をあてて、
より詳しくみていきたいと思います。

まず指摘されているのは、
若年期に勉強に励んで頭を使ったことで、
脳内のネットワークが強化され、いわば
認知機能の蓄えができているという点です。

蓄えがある分、脳の老化や病気により
日常生活に支障が出るほど認知機能が低下するまで、
つまり、認知症の発症まで時間がかかることになります。

また、子どもの頃にきちんとした教育を受けることで、
いろいろな情報を受け取れるようになったり、
その情報を自分に適用する能力が身についたりします。

そうした教育の副次的な効果として、
健康に良いものを選んで、悪いものを避ける、
適切に医療を利用するなど、多くの人が
健康を自己管理できるようになりました。

例えば、誰しも腹部が大きくなってくると、
「運動をはじめないとなあ」と危機感を感じるものですが、
これも教育の効果のひとつです。

もし、教育がなかったら、
メタボ体型になろうが、危機感ひとつ感じることなく、
そのままの生活を送り続けることでしょう。

あと、認知症かどうかの判断には
生活が自立しているかどうかが重要になっています。

現代のように高度化された社会に適応するには、
それなりの教育レベルが求められます。

ただ、現代の先進国における高齢世代は、
教育制度が充実しはじめたときに教育を受けた
初めての世代にあたります。

子どもの頃に受けた教育によって
社会に適用するさまざまな能力を身につけたことで、
生活の自立の低下がゆるやかになっていると思われます。

これらのさまざまな要因が重なって、
先進国での認知症の有病率を下げていると考えられています。

以上、若年期における教育の充実が、
認知症の有病率の低下に寄与していることをみてきました。

同時に、歳をとってから頭を使う活動を行っても、
認知機能の低下を遅らせられるという研究もあります。

認知症予防は子どもの頃からスタートしているといえ、
学びは生涯かけて続けていくものといえましょう。

学び続けることは、認知症予防だけではなく、
人生全般の幸福や豊かさにもつながっていきます。

ここからは「認知症に関する危険因子の減少」に焦点をあてて、
より詳しくみていきたいと思います。

先進国では医療が発達しており、
病気になっても適切な治療を受けられるほか、
予防医学の取り組みも広がっています。

その結果、認知症に関連する危険因子が減少し、
その分認知症患者も少なくなったと思われます。

認知症につながる危険因子の中でも、
特に重要なのが血管に関する病気です。

脳の細胞は栄養や酸素を絶えず必要としており、
それらは脳に張り巡らされた無数の血管を通して
送られているからです。

米国の高齢者を対象にした大規模な調査研究では
次のような報告がされています。

2000年時点での10,546例(平均75.0歳)と
2012年時点での10,511例(平均74.8歳)について
認知症有病率と健康状況をそれぞれ比較しました。

その結果、認知症有病率は
2000年の11.6%に対して、2012年には8.8%に
低下していたのです。

次に健康状況を調べたところ、
2000年から2012年にかけて、血管リスクに関連している
糖尿病、肥満、高血圧の割合は増加していました。

その一方で脳卒中の有病率は変化がみられませんでした。

血管系の病気にかかりやすい予備群が増えているのに、
脳卒中の発症数はあまり変化していないのは、
医療的にうまくコントロールされていることを意味しています。

病気になっても適切な治療を受けることは
認知症の発症リスクの抑制につながります。

病気の心配があるときは軽視することなく、
早めに医療機関に相談することが勧められます。

また、糖尿病、肥満、高血圧から改善できるのであれば、
認知症の有病率の低下、さらには認知症の患者数自体の減少も
期待できることになります。

日頃から食事に気を配り、運動を心がけたりしながら、
糖尿病などの病気の予備群に陥らないことを目指しましょう。

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【文献】
Claudia L., et al.
“Incidence of Dementia over Three Decades in the Framingham Heart Study”
N Engl J Med (2016)

Langa KM, et al.
“A Comparison of the Prevalence of Dementia in the United States in 2000 and 2012”
JAMA Intern Med, 177(1):51-58, (2017)

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