「きょういく」と「きょうよう」で高齢者の認知症予防を


愛知県内に住む1.2万人の高齢者を対象にした10年間にわたる追跡調査が行われました。
参照:他人との交流が“予防薬” 新しいことにチャレンジし生活に充実感を(夕刊フジ)

追跡調査からは、他人との交流が週一回未満の高齢者は、毎日頻繁に人と会っている高齢者と比べて、認知症の発症リスクが約1.4倍高いことが判明しています。

逆にいいますと、頻繁に人と会う習慣は認知症予防につながることになります。

また年齢にかかわらず新しいことへのチャレンジは、脳をフル回転することになりますので、これも認知症予防につながることがわかっています。

高齢者に「きょういく=今日行くところ」と「きょうよう=今日する用事」を創出することで、認知症予防を実現することができるのです。

では、高齢者に提供する「きょういく」と「きょうよう」として今注目を浴びているのが、高齢者就労や起業です。

高齢者が収入を得られることはもちろんのこと、働き手として必要とされることで、特に男性の高齢者の生きがいにつながったり、社会問題となっている労働人口の減少への解決策となったりと、社会的にさまざまなメリットがもたらされるだろうと期待されています。

高齢者は総じて体力が衰えている、新しいことの習得が難しくなっている面はありますが、超短期の時間帯にも対応できたり(たとえば、朝5時〜7時だけ)、ルーチンワークをしっかりこなしたりと、新たな労働力としても期待されています。

そして、高齢者がICTを習得することで、高齢者就労は更に実現されていくだろうと考えています。


これからの認知症予防に必要な2つの取り組み方


認知症予防活動は、部品の取り替えがなくなってしまった愛車を長く乗り続けることにたとえることができます。

愛車を長く乗り続けるには、2つの取り組みを実践することが重要になってきます。

・車にこれ以上ダメージがたまらないように丁寧に乗っていく

・それでもガタがきたところとは、それなりに折り合っていく

前者は、車の状態をいかに新車の時と同じように保つかということになります。

これを認知症予防にあてはめるのであれば、

 ◎有酸素運動で脳内の血流量を増やす

 ◎食べ物に気をつける(脳も身体も食べたものでできあがっています)

 ◎睡眠をしっかりとる(脳は寝ている間に脳内の老廃物を排出)

など、脳そのものを生理学的に健康に保つ活動がそれにあたります。

しかし、どれだけ大事に車に乗っていたとしても、かたちあるものは朽ちていく定めである以上、どこかはガタがくるもの。

長年乗ってきた車の場合、ドアの開閉がスムーズではなくなったり、エアコンからは夏でも温かい空気しかでなかったりとガタがきます。

それでも、ドアに微妙な力加減を加えることでスムーズな開閉を実現する技をマスターしたり、夏は窓ガラス全開で走ってみたりと、何とか折り合って愛車に乗り続けます。

認知症予防においても同じで、歳を重ねるごとに脳にガタがくることは誰も避けることができません。

いわゆる老化で、誰もが昔より物覚えが悪くなったり、以前はできたことができなくなったりするものです。

認知症予防においては、老化した脳が上手く働くように、脳の認知機能を鍛えるトレーニングをしてみたり、ICTを活用して衰えた脳の機能(特に記憶力)を補ったりして、生活に支障なく愉快に暮らせるようにします。

多くの方は認知症予防というと、脳の生理的な状態をいかに若く保つかということに注力します(もちろん、これはとても大事です)。

認知症予防の目指すところは、認知症の定義からして、まさに生活に支障をきたさないようにすることでありますから、「ガタがきたところとはそれなりに折り合っていく」スキルも、とても大事になってきます。

長年、高齢者向けのICT教育に携わっている身としては、高齢者がICT利活用を習得することは、(脳がある程度老化しようとも)生活に支障をきたさないように愉快に生きていけるようにサポートしてくれます。

実際のところ、高齢者にとって未知の分野であるICTを習得するプロセスそのものが脳の認知機能を鍛えることにもつながっています。

認知症予防においては、脳を生理的に健康に保つ活動と、老化した脳と折り合いをつけながら生活に支障がでないようにしていく活動の両方を意識することが、大事になってくるだろうと思います。


手術で改善する可能性がある認知症があります


日本では認知症の発症原因の5割をアルツハイマー型がしめており、また現在の医学ではアルツハイマー病の治療法や根治薬がまだ見つかっていません。

そのため認知症の代名詞としてアルツハイマー病を思い浮かべる人も多く、認知症を発症するともう治らないものというイメージが人々の中で定着しています。

実はアルツハイマー型以外にも、脳血管性型、レビー小体型など、認知症にはさまざまな発症原因が確認されています。

症状としてはひとつなのですが、その認知症の症状(認知機能の低下により生活に支障をきたしている)をもたらしている原因は複数あるということです。

認知症の発症原因によっては、数は少ないですが、手術で改善する事例もあります。

 参照:手術で改善する可能性がある認知症「知らない」が9割(あなたの健康百科)

手術で改善できる発症原因であれば、手術を選択することで、認知症が改善する可能性があります。

またアルツハイマー型認知症であっても、初期段階であればあるほど、認知症を進行させないための選択肢もたくさん残されています。

認知症の疑いがあるときは、受診を先延ばしにすることなく、今日にでも病院に相談することが大事になってきます。


約43万人もの介護難民に備えて


団塊世代が75歳以上の後期高齢者となる10年後の2025年には、全国で約43万人が必要な介護を受けられず、そのうちの3割である約13万人が東京圏に集中するという試算が発表されました。

参照:2025年…「介護難民」受け皿どうする?(YOMIURI ONLINE)

東京圏では子どもを保育園に入れたくても入れられない「待機児童」が問題となっています。

同じ東京圏で、今度は介護を必要とする高齢者が介護施設に入れない「待機介護」が社会問題になろうとしています。

待機介護は、

介護を必要とする人 > 介護施設の収容数

という不等式が成り立つから問題となってます。

行政から発表されるコメントを見ますと、「地方誘導に違和感」や「介護職員の不足に不安」という声があがっており、上記の不等式でいうところの「介護施設の収容数」に焦点があたっているように思えます。

介護業界の慢性的な人手不足や国や地方自治体の限られた予算を考えると、「介護施設の収容数」を増やすには限度があります。

そうではなくて、不等式の左側である「介護を必要とする人」に焦点をあてる、つまり、介護を必要とする人をそもそも減らせないかを考えることで、待機介護の問題を解消する手立てが見つかります。

待機児童の場合、待機児童の数そのものを減らす施策をとると、少子化が更に加速することになり、50年後、100年後の日本に禍根を残すことになります。

待機介護の場合は、介護を必要としない人そのものを減らす、つまり健康で自立した人を増やすことこで、待機介護の問題が解消されるばかりか、逆に高齢者の就労や社会活動を通して、社会に大きなプラスをもたらします。

待機介護を解決する糸口として期待されるのは「認知症予防」です。

ことばの響きで認知症予防に抵抗を示す人がまだまだ多いようですが、最新の認知症予防は、脳のことだけでなく、身体全体、心、人的ネットワーク、資産などの人が生きていく上で欠かせない要素をすべてバランスよくしていこうという考え方になってきています。

「認知症予防」という特定の症状を連想させるものから、ライフスタイル全体をよくしていくことをイメージさせるものに、将来的には呼び方が変わるかも知れません。

正直なところ、認知症予防のことを知ってもらおうと、人を集める集客ひとつをとっても、民間でできることには限度があります。

行政には予算があり、大人数が集まる施設があり、広報というメディアももっています。

行政が目の付けどころを変えて、介護を必要としない人を減らす施策、つまり「認知症予防」の啓蒙と普及に焦点をあてていくことで、待機介護の問題もその質が変わってくるだろうと思います。


認知症予防は少なくても5年間取り組めるものを


先月5月29日に厚生労働省研究班が、認知症の人の医療や介護に関し、社会全体が負担している費用を算出しました。

平成26年の1年間で社会負担は約14兆5千億円に上るとの推計で、その内訳は医療費1兆9千億円、介護費6兆4千億円、家族が自ら行う介護などは6兆2千億円。

団塊ジュニアが高齢者となり、高齢人口が更に増える2060年には、約24兆3000億円まで膨れあがる見込みです。

参照元:認知症:社会的負担14.5兆円 医療、介護費用など試算 厚労省(毎日新聞)

これまで無償扱いの家族が行う介護負担が、体験的なことだけでなく、数値としても大きいことが明らかになりました。

また国の医療費・介護費が悲鳴を上げ、介護業界の慢性的な人材不足の現状を考えますと、今後介護する家族への負担は増えることはあっても、減ることはありません。

やはり、自分の人生の質と家族のことを思えば、元気なうちから「認知症予防」に努め、認知症発症のリスクをかぎりなく抑えていくことは、推奨というよりも義務レベルまで、重要度も緊急度も高くなっています。

今40代で高齢の親を抱える団塊ジュニア世代にとっては、親の認知症予防とともに自分のことも考えて、今どのように行動していくかは、日本の未来を大きく左右する選択肢であります。

ある試算によると、アルツハイマー型認知症の発症を5年遅らせることができれば、発症率が半減するとあります。

認知症の発症前に寿命を全うできる人の数が増えると、本人にとっても、その家族にとっても、とても有意義なことになります。

全国民的に認知症予防に取り組み、発症を5年遅らせることができれば、これから2060年にかけての約5兆円の社会負担の削減と年間10万人ともいわれている介護離職者の軽減を達成できることになります。

認知症予防は、生活習慣の改善からパソコン、脳トレ、カラオケ、旅行などのアクティビティ(活動)まで、さまざまなものが提唱されています。

認知症予防は、短期間にたくさん頑張るよりも、小さな活動でも長年続けている方が時間の複利効果が働いて、予防効果は高くなります。

先に述べた数値から考えますと、少なくても5年間は取り組める認知症予防プログラムが望ましいことになります。

たとえば、パソコンや今流行のタブレットですと、日々新しい技術やサービスが生まれていますので、学ぶ内容には事欠くことがありません。

また、認知症予防プログラムの活動を通して身につけたパソコンやインターネットの知識やスキルは、お買い物や情報収集などの日常生活のサポートにいかすことができます。

5年間のお金も時間もエネルギーも費やすのですから、自分に関心があるものは選ぶモノはもちろんのこと、波及効果が見込めるかどうかの視点も考えたいところですね。